近鉄グループの高級旅館「奈良万葉若草の宿三笠」でも、牛脂注入の“霜降り肉”が使われていたことが発覚した。

 会席料理の「和牛朴葉(ほおば)焼き」(6300円)も、子ども向け「バンビ御膳」(3150円)の「和牛ステーキ」も、結構な値段を取りながらインチキだった。

 和牛でなくても、せめて国産牛(国内で一定期間飼育)と思いきや、これが格安の豪州産冷凍物。こんな旅館が3年連続でミシュランガイドの優秀旅館に掲載されたのだから、客は詐欺に遭ったも同然だろう。格付けなんてアテにならないのだ。

 では、加工牛はどう見分けるのか? 満天の星のごとく、赤身全体に白い脂の粒がちりばめられているのが牛脂注入肉の特徴。本物は、切り口のサシ(脂肪)の入り方がおおむね線状。だが、火を通すと、脂が溶け出して見分けが難しくなるから、「最高の霜降り」とヌカ喜びする客が出てくる。牛脂注入肉は、脂が舌や喉の奥にまとわりついてしまう。

 神奈川県内の有名ホテルの料理長は、「この手の偽装はけっして珍しいことではない」と言う。
「和牛と言われれば、客は国産と思い込むが、実際は、生まれも育ちも米国、豪州の和牛を使うホテルがいくらでもある。7年前までは、うちもそれが常識だった」

 和牛の逆輸入が一般化したのは、日本から優良和牛の凍結精液が国外流出したからだった。小売り現場では、原産国さえ明記すれば、「和牛」表示で販売できることがJAS法(日本農林規格)で認められていた。しかし、06年末を境に輸入和牛は、どんな純粋種でも「和牛」と表示できなくなる。表示できるのは、国内育ちの黒毛和種、褐毛(あかげ)和種、日本短角種、無角和種の日本在来4種に限定されたのだ。多くのホテルが7年くらい前から偽装に手を染めたのは、 偶然ではない。

 輸入牛肉で見逃せないのは、大量投与される成長ホルモン剤。日本では使用できないが、米国、豪州では合法。問題は、それがいかに肉に残留しているかだが、専門家が女性ホルモンの濃度を調べると、米国産の赤身肉は国産の約600倍と異常に高かった。EU(欧州連合)は、残留する女性ホルモンに「発がん性の疑いがある」と主張して、24年前から米国産牛肉の禁輸を続けている。

 米国での牛のエサは、遺伝子組み換えの大豆カス、トウモロコシが主体。BSE(牛海綿状脳症)発生後、日本やEUは家畜、家禽(かきん)に牛の肉骨粉を与えることを全面禁止にしたが、米国では今なお使われている。また、日本は月齢20カ月以上の牛肉に対してBSE検査を実施中だが、米国では検査システムもない。

 もっと気がかりなのは、病気予防目的の抗生物質の乱用。牛肉の多くから抗生物質耐性菌が見つかり、米国内でも大問題になっている。そんな肉を食べていれば、病気のときに抗生物質が効かなくなり、あの世行きになる。さらに、殺菌目的で牛肉への放射線照射すら認可済みなのだ。
【ルポライター 吾妻博勝】

▽あづま・ひろかつ 福島県生まれ。放射能に汚染された山菜の出荷を告発して話題に。著書に「おいしい野菜の本当はこわい話」「コメほど汚い世界はない」「回転寿司『激安』のウラ」「初心者でもわかる人気食品の危険度」「新宿歌舞伎町 マフィアの棲む街」など。
日刊ゲンダイ 11月12日(火)10時26分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131112-00000013-nkgendai-life