2012121402 JR九州が新規事業として取り組む農業の中で、生産から販売まで手掛ける鶏卵事業が好調だ。今年2月に発売した同社のブランド卵「うちのたまご」の 2012年度売り上げは約1億円に達する勢い。同社の農業事業全体の売り上げ見込みは約2.5億円のため、卵が全体の約4割を占める稼ぎ頭なのだ。
 
 10個入り1パック200円以下の卵が多い中、「うちのたまご」は1個63円。1987年の民営化から15年。鉄道会社が作った高級卵がなぜ売れるのか。ヒットの裏側を探ると、付加価値の高い「本物」のサービスにこだわり続ける姿がそこにあった。

こだわりの環境で飼育
 
 JR筑豊線の桂川駅からタクシーで約15分。福岡県飯塚市弥山の山あい、同社グループが運営するゴルフ場近くに「JR九州たまごファーム」はあった。
 
 出迎えてくれたのは、JR九州たまごファーム取締役経営管理部長兼総務部長の福田太喜雄さんとJR九州経営企画部農業推進室副室長の出田(いでた)貴宏 さん。出田さんに「JR九州に農業推進室なんて不思議な感じがしますね」と問い掛けると、「そうでしょう。でも、いま、JRが取り組んでいる新規事業の中 で特に力を入れているのが農業分野なんです」と返ってきた。

 「うちのたまご」の名称の由来は、会社と養鶏場があるこの土地の名前(旧長崎街道の宿場町であった内野宿)と「わが家の卵」というイメージから唐池恒二 社長が命名したという。「JR九州だけではなく、地域興しにつながるブランドとして育てていきたいという思いがこの名前に込められています」と出田さん。

 小高い場所に建てられた2階建ての六つの鶏舎には、約9600羽の親鶏。一般的に、養鶏場の親鶏はギュウギュウ詰めの「満員電車」状態で飼育されること が多く、一つの養鶏場で10万羽を飼育することも少なくないというが、JR九州たまごファームでは、1棟あたり1600羽を飼育。余裕のある環境の中、常 駐する福田さんを含むJR九州本社の出向者3人とパートの地域住民ら計13人のスタッフが毎日鶏舎を管理し、ふんの処理をベルトコンベヤーで行うなど徹底 した衛生管理を行っている。

 さらに、サルモネラ菌などの病原を防ぐため、一つの鶏舎に若鶏を一斉に入れ、15カ月飼育した後には一斉に食鳥処理場に出す「オールイン・オールアウトシステム」を採用。空になった鶏舎は丁寧に水洗・消毒し、約1カ月休むという。
 
 餌にもこだわりがある。親鶏たちが口にするのは、とうもろこしや魚粉、大豆、牧草などの自然の原料で、養鶏場内に掘られた井戸から湧く天然の地下水で飼 育する。福田さんは「健康的なニワトリから健康的な卵がうまれる。親鶏にとって、適度な運動と栄養ある食事が採れる、最適な環境を保っています」と自信を 見せる。


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「福岡土産」と人気に

 現在、「うちのたまご」は、生卵を中心に博多阪急(福岡市)、山形屋(鹿児島市)、スーパーASO(福岡県飯塚市)、食品宅配専門スーパー「オイシック ス」(東京)、食品宅配サービス「旬工房」(福岡県古賀市)に納品。中には「高すぎる」「『ビタミンE強化』など、消費者にとって分かりやすいキャッチコ ピーがないから売れない」などと敬遠されることも少なくないというが、口コミ効果などで徐々に浸透し、「メーンメニューに使う卵は他の業者に依頼するが、 特別メニューに『うちのたまご』を使いたい」というレストランも増えてきたという。

 「価格が高くても、品質の高い卵であれば消費者はついてくる。今後は、ブランド価値を高め、年間を通じての安定した生産と販路拡大をするのが課題です」と福田さん。

 福田さんによると、「うちのたまご」の特徴は、白身に盛り上がる黄身の膨らみと、白身のプリプリした食感。今年2月にJR博多駅構内、同7月に羽田空港内に直売所を設置し、併設したレストランでは卵かけご飯と玉子丼を食べられる。早速、JR博多駅構内に行ってみた。

 卵を割った瞬間、トロッとした大振りの黄身が出てきた。箸でつついても形が崩れない。値段は、白ご飯1杯と卵1個までおかわりできて500円。決して安 くはないが、居合わせた客から「おいしい」「おかわり」と声がかかる。羽田空港の直売所併設のレストランも好評で、11月22日に座席数を9席から15席 に増やし、リニューアルオープンしたという。

 卵がけご飯のほかにも、「うちのたまご」を使ったプリンやケーキを販売。福岡土産に購入する人も少なくないという。


守りたい「車窓の風景」

 JR九州の鉄道運輸事業が占める売り上げの割合は4割と少ない。民営化した1987年以降、同社は事業の多角化を進め、日韓を結ぶ高速船ビートルの運航や不動産開発、飲食店経営などに参入してきた。農業参入も、こうした事業多角化の延長だ。

 なぜ、農業なのか。そこには収益だけではない、「鉄道会社」としての思いも隠されていた。

 九州の農業産出額は全国の約2割を占めるが、一方で休耕田も多い。出田さんは「九州の農業を応援することと、美しい田園風景を次の世代へつなげたいという思いがあった」と打ち明ける。「車窓から見える美しい風景があってこそ鉄道の旅は楽しめる」と思うからだ。

 また、農業の後継者が減り、若者が都会へ流出すれば地方の活気が失われてしまう。地方が衰退すれば人の行き来が少なくなり、鉄道の利用者も減少する。JR九州が農業に力を入れる背景には、こうした将来への危機感もあるという。

 2010年4月に始まったニラを皮切りに、甘夏、ミニトマト、卵、サツマイモ、ピーマンと生産品目を徐々に拡大しているJR九州。最近は、鉄道マンとしてではなく、農業をはじめ新規事業に憧れてJR九州に入社する若者も少なくないという。

 福田さんは来年4月で入社15年目。これまで、旅行業や広告業の仕事に長く携わってきたというが、「生きものを扱う緊張感と喜びは今まで味わえなかった 感覚。今朝も朝から卵を拾いましたが、やりがいがあります。地域を基盤に信頼される企業としてのJR九州のブランド力を卵にも生かしていきたい」と話す。 出田さんも「農業事業は始まったばかり。今は6品目しかないが、もっと品目を増やし、ゆくゆくは10億円超の売り上げを目指したい」と意気込んでいる。

 JR九州の中期経営計画(2012年度~16年度)の資料には、農業を柱とする「新規事業へのどん欲な挑戦」という言葉が明記されている。
qBiz 西日本新聞経済電子版 12月14日(金)10時15分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20121214-00010000-qbiz-bus_all